大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)204号 判決

原告 西内正治

被告 法務大臣 前尾繁三郎

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告提出の訴状によれば、本件請求の趣旨は、「原告が昭和四六年六月一五日付でした情願に対し、被告が同年八月二四日付でした却下の裁決を取り消す。」というにあるものと解され、その請求原因の要旨は、つぎのとおりである。

一  原告は、昭和四五年一二月一一日から大阪刑務所に在監中の者であるが、同刑務所においてつぎのような違法不当な処遇を受けている。

1  なんら法令上の根拠がないのに、一日すくなくとも二回全裸検査を受けることを強制されている。これはきわめて屈辱的であるばかりでなく、寒中や病気の際にはたえがたい苦痛である。

2  信書を検閲され、家族等への発信を阻止されている。これは憲法二一条に違反する。

3  図書の入手を不当に制限されている。

4  懲罰がきわめて苛酷である。

5  病人に対する医療や処置が不十分である。

二  そこで、原告は、昭和四六年五月一七日、監獄法七条の規定に基づき、右の事項について巡閲官吏に情願をしたが、なんら改善のきざしがなかったので、同年六月一五日さらに被告に対し、右情願についての処置を問い合わせるとともに、あらたな事情をも加えてふたたび同様の情願(本件情願という。)をしたところ、同年八月二四日付で本件情願を却下する旨の裁決がなされた。

三  しかし、本件情願は前記違法不当な処遇の是正を求めるものであるから、これを認めなかった右裁決は違法であり、取り消されるべきである。

理由

監獄法七条は、在監者が監獄の処置に対して不服があるときは、主務大臣に情願することができると定めているが、情願の対象となる事項が監獄の処置全般に及び、その不服の理由にもなんら制限がなく、処置の違法不当にかぎらず自己の希望に反することを理由とすることもできる点から考えると、右の情願は、在監者が監獄の処置について監督官庁である主務大臣に自己の希望を開陳して、監獄に対する指揮監督権の発動を促すものであって、いわゆる請願の一種と解すべきである。

したがって、主務大臣はこれを受理して誠実に処理すべきであるけれども、それ以上に、当該情願者が主務大臣に対して、その情願に対する裁決を求める権利を有するものではない。

そうすると、原告の本件情願に対して被告がした本件裁決は、その内容如何にかかわりなく、原告の法律上の地位に影響を及ぼすものではないから、その取消しを求める本訴は不適法であり、その欠缺を補正することができないので、民訴法二〇二条により右訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき同法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 内藤正久 佐藤繁)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例